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前橋家庭裁判所高崎支部 昭和59年(家)1472号 審判 1986年7月14日

申立人(1472号事件相手方〕

神田トミ 外2名

相手方(223号、1469号、1470号、1471号事件申立人)

中野治子

被相続人 神田明治

主文

1  申立人神田トミの寄与分を1000万円、申立人神田正雄の寄与分を500万円とそれぞれ定める。

2  申立人神田美恵子及び相手方の寄与分を定める申立を却下する。

3  被相続人の遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙遺産目録1の(2)ないし(5)の土地並びに同目録3の(5)の預金のうち金244、415円は、申立人神田トミの単独取得とする。

(2)  別紙遺産目録1の(7)、(11)、(12)、(15)の土地並びに同目録3の(1)ないし(4)の預金及び同(5)の貯金のうち金315、585円は、相手方の単独取得とする。

(3)  別紙遺産目録1の(1)、(6)、(8)ないし(10)、(13)、(14)の土地及び同目録2の(1)ないし(5)の建物は、申立人神田正雄及び申立人神田美恵子の共有(共有持分各2分の1)取得とする。

(4)  申立人神田美恵子は、申立人神田トミに対し、金2、027、283円、申立人神田正雄に対し、金2,097,231円とこれらに対する本審判確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

理由

1  申立人らの申立の要旨

(1)  被相続人は、昭和57年5月12日死亡し、同人の遺産につき相続が開始した。

(2)  その相続人は、妻である申立人神田トミ(以下「申立人トミ」という。)、被相続人と申立人神田トミの間の養子である申立人神田正雄(以下「申立人正雄」という。)、被相続人とその先妻ミキとの間の長女である申立人神田美恵子(以下「申立人美恵子」という。)及び被相続人と申立人神田トミとの間の長女である相手方の4名である。

(3)  被相続人の遺産としては、別紙遺産目録1記載の土地、同目録2記載の建物、同目録3記載の預貯金(以下「本件土地・建物・預貯金」という。)の外に、農機具、自動車などがあるが、本件土地・建物・預貯金を除く他の物件は遺産分割の対象としない。

(4)  ところで、申立人トミは、昭和27年12月被相続人と結婚して以後、被相続人の父母らと同居して被相続人とともに農業(米・麦作、養蚕)に従事していたところ、被相続人は、昭和35年ころから米・麦作等を縮少して本格的に養豚業を始めたが、一方同人は、そのころから群馬県群馬郡○○町町会議員を務め、その他同町農業委員、○○種豚組合会長なども務めていて多忙であつたため、日常の豚の飼育、豚舎の掃除等の作業には、主として申立人トミが従事していた。被相続人は、昭和40年から昭和47年にかけて、本件各土地を次々に買い受けて、養豚業の規模を拡大していつたが、これは申立人トミの稼働に負うところが大きいものである。

また、申立人美恵子は、昭和44年に高校を卒業して以後農業を手伝うようになり、車の運転免許を取得して、車で豚の種付けに行くなどしていた。そして、申立人正雄は、昭和49年3月申立人美恵子と婚姻し、被相続人の養子となつた以後は、被相続人の後継者として、一家の中心となつて養豚業に従事し、申立人トミ、同美恵子と協力して豚舎を改造したり、金融機関から自己名義で金員を借り受けて豚舎を新築するなどして養豚業の規模をさらに拡大したものである。

このようにして、申立人らは、いずれも遺産である本件土地・建物の取得、維持につき特別の寄与・貢献をしたものであり、相当の寄与分が認められるべきである。

(5)  申立人らは、相手方と遺産分割の協議をしたが、協議が整わない。

よつて、申立人らにつき相当額の寄与分を定める旨の審判及び本件土地・建物・預貯金についての遺産分割の審判をそれぞれ求める。

2  相手方の主張及び昭和59年(家)第1472号事件の申立の要旨

(1)  申立人らの申立の要旨(1)ないし(3)及び(5)の事実は争わない。

遺産のうち、本件土地・建物・預貯金について分割し、他の物件については分割の対象としないことに同意する。

(2)  被相続人の子は、申立人美恵子と相手方の2人であつたが、同申立人が先妻の子であることから、被相続人は、早くから相手方を農業後継者と決めており、相手方は、物心ついたころから被相続人からその旨言われ、小学生のころから15頭位の豚を受け持ち、毎日朝夕の餌くれ、豚舎掃除などの作業に従事し、中学卒業後は農林高校蓄産部に入学して、養豚の勉強をしながらこれを続けていた。そして、被相続人は、昭和40年から昭和45年にかけて次々に土地を買い受けて豚舎を建てて養豚業を拡張し、昭和45年ころまでには養豚業の基盤はできあがつていたのであるが、これには相手方の労務提供が大きく寄与している。相手方は、その後も、昭和54年結婚して家を出るまで養豚業を手伝い、家業に尽していたもので、遺産の増加に寄与・貢献したものであるから、相当の寄与分が認められるべきである。

よつて、相手方につき相当額の寄与分を定める旨の審判を求める。

3  当裁判所の判断

(1)  相続の開始、相続人及び法定相続分

筆頭者神田良治、同神田正雄、同中野正俊の各戸籍謄本によると、被相続人は、昭和57年5月12日死亡し、相続が開始したこと、その相続人は、妻である申立人トミ、被相続人と申立人トミとの間の養子である申立人正雄、被相続人と先妻である伊藤ミキとの間の長女である申立人美恵子及び被相続人と申立人トミとの間の長女である相手方の4名であること、その決定相続分は、申立人トミが6分の3、その余の相続人が各6分の1であることが認められる。

(2)  遺産の範囲及びその評価額

本件各土地についての各登記簿謄本、群馬銀行○○支店作成の残高証明書2通、群馬○○郵便局長作成の郵便貯金現在高証明書、当庁家庭裁判所調査官○○○○の調査報告書並びに申立人トミ、同正雄及び相手方に対する各審問の結果によると、本件遺産分割の対象となる被相続人の遺産は、別紙遺産目録1ないし3記載の本件土地・建物・預貯金であることが認められる。なお、税理士○○○○作成の相続税申告書添付の「相続税がかかる財産の明細書」及び上記調査官の調査報告書によると、被相続人の遺産として他に農機具、自動車、家財道具、出資金(○○町農協)等があることが認められるが、申立人ら及び相手方は、これらの物件については遺産分割の対象としないことで合意しており、従つて、上記各物件については遺産分割の対象から除外する。

しかして、申立人ら及び相手方は、有限会社○○土地のなした評価証明に基づいて本件各土地の評価をし、また、○○町長のなした固定資産評価証明に基づいて本件各建物の評価をすることで合意しているところ、諸般の事情に顧みると、本件各土地・建物の遺産分割審判時現在の評価額として上記各評価が特に不相当とは認められないので、これらによることとし、有限会社○○土地代表者加鳥修作成の昭和60年4月13日付及び昭和61年5月13日付各証明書に基づき遺産分割審判時現在の本件各土地の評価額を査定し、また、○○町長○○○○○作成の昭和61年5月22日付固定資産評価証明書に基づき本件各建物の同評価額を査定すると、別紙遺産目録1及び2の「分割時価額」欄記載のとおりとなる(10000円未満は切捨)。そして、上記分割審判時の本件各土地の評価額に基づき、○○町長○○○○○作成の昭和58年6月27日付評価額証明書による各土地の評価額と、同人作成の昭和61年5月29日付固定資産評価証明書による各土地の昭和61年度の評価額を比較対照して、相続開始時の本件各土地の評価額を算出すると、同目録1及び2の「相続開始時価額」欄記載のとおりとなる(10000円未満は切捨)。なお、○○町長○○○○○作成の昭和61年5月22日付固定資産評価証明書と同人作成の昭和58年6月27日付評価額証明書を比較対照すると、本件各建物の相続開始時の評価額は分割審判時のそれと同一であると認められる。

従つて、別紙遺産目録記載のとおり、本件遺産の相続開始時の価額は総額金120,059,901円で、分割審判時の価額は総額金151,749,901円となる。

(3)  寄与分

<1>  申立人トミ

当庁家庭裁判所調査官○○○○の調査報告書並びに申立人トミに対する審問の結果によると、次の事実を認めることができる。

申立人トミは、昭和27年12月(婚姻の届出は昭和28年2月24日)被相続人と結婚したが(申立人トミは初婚、被相続人は再々婚。)、被相続人は、当時60歳の父富平と米・麦作・養蚕を中心とした農業を営んでおり、申立人トミも被相続人の父母らと同居して、申立人美恵子、相手方2人の子供を養育し、家事をしながら農業に従事していたところ、被相続人は、昭和30年ころから養豚業を始め、昭和35年ころには養蚕をやめ、米・麦作を縮少して本格的に養豚業を営むようになり、申立人トミもこれに協力したが、被相続人は、そのころから○○町町会議員を務め、また、昭和40年ころから○○種豚組合会長を、その他同町農業委員なども務めていて、公的活動に忙しく、日常の豚の飼育、豚舎の掃除等の作業は申立人トミが中心になつてやつていた。そして、被相続人は、昭和40年に別紙遺産目録1の(3)、(5)、(6)、(8)記載の各土地を、昭和43年に同目録1の(2)、(4)記載の各土地を、昭和45年に同目録1の(11)、(12)記載の各土地を取得し、豚舎等を建築して、そのころまでに遺産の大部分を取得して養豚業の規模を拡大していつた。昭和49年申立人正雄が申立人美恵子と結婚して被相続人・申立人トミの養子となつて以後は申立人正雄が中心になつて養豚業を営んでいたが、後記のようにさらにその規模が拡大したため、申立人トミも引き続いて養豚業の手伝いをしていた。そして、被相続人が昭和56年11月入院してからは死亡するまで病院で付添看護にあたり、被相続人の看病に専念していた。

これらの事実を勘案すると、申立人トミは、結婚後被相続人とともに長年にわたり養豚業に従事し、これにより被相続人の主要な遺産である本件土地・建物の維持、形成につき著しい寄与をなしたもので、それは通常の夫婦の協力扶助の程度を超えた特別の寄与があつたものというべきであるが、その寄与分は、申立人トミの相続持分等も考慮して、1000万円と認めるのが相当である。

<2>  申立人重雄

上記調査官○○○○及び同調査官○○○○の各調査報告書、本件各土地の登記簿謄本並びに申立人トミ及び同正雄に対する各審問の結果によると、申立人正雄は、昭和49年3月6日申立人美恵子と結婚し、被相続人・申立人トミの養子となつて以後は事実上の農業後継者として、一家の中心になつて養豚業に従事し、被相続人の遺産の維持に特別の寄与があつたと認めることはできる。しかし、一方で、申立人正雄は、昭和52年被相続人から別紙遺産目録1の(5)ないし(10)記載の各土地に抵当権を、昭和55年同目録1の(13)、(14)記載の各土地に根抵当権を設定してもらつて○○町農業協同組合等から約2000万円の融資を受け、これで、群馬県群馬郡○○町大字○○字○○××××番×畑1599平方メートルを買い受け、新たに申立人正雄名義の豚舎を数棟新築して自己の豚を増やして養豚業の規模を拡大していったことも認められ、上記借受金は申立人正雄において分割して返済していることが認められるものの、これは、特別の受益ともみなし得るものであり、これらの事情を勘案すると、申立人の寄与分は500万円と認めるのが相当である。

<3>申立人美恵子

上記調査官○○○○の調査報告書並びに申立人トミ及び同正雄に対する各審問の結果によると、申立人美恵子は、昭和26年1月22日被相続人と先妻伊藤ミキの長女として出生し、高校を卒業して事攻科を終了した昭和45年ころまではほとんど家の農業の手伝をしなかつたが、その後農業や家事の手伝をするようになり、昭和49年申立人正雄と結婚して以後は、同申立人に協力して共に養豚業に従事し、昭和53年10月農作業中豚に足をかまれて切断する事故が起き、入院するなどして昭和54年4月まで農作業を休んでいたことが認められ、また、この間申立人正雄の財産も形成され養豚業の規模が拡大されたのは前記のとおりであり、これらの事情に顧みると、申立人美恵子については寄与分として特別の考慮をしないのが相当である。

<4>相手方

上記調査官○○○○の調査報告書並びに申立人トミ及び相手方に対する各審問の結果によると、次の事実が認められる。

相手方は、昭和29年12月4日被相続人と申立人トミの長女として出生し、小学生のころから被相続人より農業後継者になれと言われ、朝晩や休日などの養豚業の手伝をして、豚の餌くれや豚舎の婦除等に従事し、中学卒業後は養豚業の後を継ぐ意思で○○農林高校に進学し、蓄産部に入部して養豚の勉強もし、被相続人や申立人トミに協力していたところ、昭和48年ころに申立人正雄と同美恵子の結婚の話が持ち上がつたことから、同年4月高校卒業後調理師学校に入学し、昭和49年4月会社に勤めるようになつたが、休日など家事や養豚の手伝もし、その後昭和54年11月7日中野正俊と結婚して家を出るに至つた。

これらの事情を勘案すると、相手方としては、被相続人らから農業後継者と期待をかけられ、普通の農家の子女以上に養豚業の手伝をして家業に協力してきたことは認められるが、養豚業に主として協力した期間が、相手方が小学生から高校生にかけての期間であつて、いわば学業の合間の手伝であり、申立人トミ、同正雄の寄与・貢献等と比較考慮しても、特別の寄与分として考慮するのが相当と認めることはできない。

(4)  具体的相続分

上記のように、本件相続開始時の遺産の価額は金120,059,901円であり、申立人トミの上記寄与分として金10,000,000円及び申立人正雄の上記寄与分として金5,000,000円を控除すると、残額は金105,059,901円である。これに基づき各相続人の具体的相続分を算出し、これを比率で示すと、次のとおりである。

申立人トミ

105,059,901×(3/6)+10,000,000円 = 62,529,950円 (0.521)

申立人正雄

105,059,901円×(1/6)+5,000,000円 = 22,509,983円 (0.187)

申立人美恵子及び相手方

105,059,901円×(1/6) = 17,509,984円 (0.146)

(5)  本件土地の現況及び当事者の分割についての意見

<1>  ○○町長○○○○○作成の昭和61年5月22日付、同月29日付固定資産評価証明書、申立人正雄撮影の写真並びに各当事者に対する各審問の結果によると、次の事実が認められる。

本件土地のうち、別紙遺産目録1の(1)は宅地であつて、同土地と、群馬県群馬郡○○町大字○○字○○×××番の借地上に、同目録2の(1)ないし(3)の建物(居宅及び付属家)があり、申立人らがここに居住している。(なお、申立人トミは、相手方と同居する意思はない。)

同目録1の(2)ないし(6)の各土地は、現況宅地であつて、いずれも同目録2の(4)及び(5)の建物等の豚舎等が建つており(なお、同目録1の(6)の土地上には申立人正雄所有の豚舎がある。)、同目録1の(8)の土地上には堆肥舎及び堆肥場があつて、一部梅林であり、同(9)の土地は梅林で、一部堆肥場があり、同(13)の土地は、一部豚放牧場、一部豚糞乾燥場になつており、同(14)の土地は、豚放牧場となつており、同(7)の土地には豚の飼料用の牧草があり、申立人ら、特に申立人正雄が中心になつてこれら土地・建物を利用して養豚業を営んでいる。

同目録1の(10)の土地は、梅林に、同(11)、(12)、(15)の土地は、畑になつており、申立人らにおいて利用している。

なお、同目録1の(5)ないし(10)の土地には、申立人正雄の農林漁業金庫に対する金1628万円の債務につき抵当権が設定され、同債務のうち約金1200万円が残つている。

<2>  遺産の分割方法について、申立人らにおいては、申立人トミが別紙遺産目録1の(2)ないし(4)の土地を、それでも不足の場合は同(5)の土地を取得し、相手方へは同目録1の(11)、(12)、(15)の土地と同目録3の預貯金を、それでも不足の場合は同目録1の(7)の土地、次いで同(10)の土地を取得させ、その余の遺産は、申立人正雄、同美恵子が共同で取得することを希望している。また、相手方は、別紙遺産目録1の(11)、(12)、(15)の土地、さらに同(2)の土地を取得することを希望している。

(6)  分割の方法

本件遺産の、遺産分割審判時現在における評価額は、前記別紙遺産目録記載のように、総額金151、749、901円である。これを各相続人の具体的相続分に応じて配分すると、各相続人の取得額は次のとおりである。

申立人トミ 151,749,901円×0.521 = 79,061,698円

申立人正雄 151,749,901円×0.187 = 28,377,231円

申立人美恵子及び相手方 151,749,901円×0.146 = 22,155,486円

そして、上記認定した本件各土地・建物の現況、使用状況、遺産分割に関する当事者の意見、その他一切の事情を総合勘案すると、本件遺産については次のように分割するのが相当である。

(一)  別紙遺産目録1の(2)ないし(5)の土地並びに同目録3の(5)の貯金のうち金244,415円は申立人トミの単独取得とする。

(二)  別紙遺産目録1の(7)、(11)、(12)、(15)の土地並びに同目録3の(1)ないし(4)の預金及び同(5)の貯金のうち金315,585円は相手方の単独取得とする。

(三)別紙遺産目録1の(1)、(6)、(8)ないし(10)、(13)、(14)の土地及び同目録2の(1)ないし(5)の建物は申立人正雄及び同美恵子の共有(共有持分各2分の1)取得とする。

(四)  以上によると、申立人美恵子の財産取得額は、金26,280,000円であつて、その取得すべき額を金4,124,514円超過する。一方申立人トミの財産取得額は、金77,034,415円であつて、その取得すべき額に金2,027,283円不足し、申立人正雄の財産取得額は、金26,280,000円であつて、その取得すべき額に金2,097,231円不足する。従つて、申立人美恵子は、遺産取得の代償として、申立人トミに対し金2,027,283円、申立人正雄に対し金2,097,231円と、これらに対する本審判確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

4  よつて、申立人トミの寄与分を1000万円、申立人正雄の寄与分を500万円と定めることとし、申立人美恵子、相手方の寄与分を定める申立は却下することとし、被相続人神田明治の遺産について、各当事者の分割取得分等を主文のように定め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 木下秀樹)

別紙目録<省略>

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